これは、ボクが骨髄ドナーとして入院していた時、最も辛かった事です。
馬鹿馬鹿しい話と思われるでしょうが、ボクは割と本気で、これに悩んでいたのですよ(汗)。
―――
入院初日の夜、酒を飲んでいない事もあり、なかなか寝付けなかったのですよ。
たまに眠気が訪れても、その都度なにか物音がしたり、腕や足を引っ張られて目が覚めたり。
ただでさえ翌日に手術を控えているというのに、困ったものだな、そう思っていました。
あ、今『腕や足を引っ張られる』と書きましたが、誰かがそこにいた訳ではありませんよ?
理由は分かりませんが、眠ろうとすると、そんな夢を観るのですよ。
眠りに落ちる……と思った瞬間、バンッ! という感じで引っ張られる。
しかも、爪を立てて指先で引っ張られるせいで、地味に痛いのです(涙)。
― 全く、困ったものだな(疲)。
眠れないせいか、何だかやたらと幻覚が見えます。
透明な玉みたいなものが周囲を漂い、白い光が壁から壁へと抜けて行く。
直径1mmにも満たない黒い点が、目の前を通り過ぎる……。
― 疲れてるな~、ボク(泣)。
確実に眠たいのに、眠れない……そんな苛立ちと戦いながらも、悶々と過ごす夜。
気付けば、時刻は深夜3時過ぎ。
眠れないまでも、せめて体を休ませておこうと、じっと目を瞑ります。
周囲の音は気にしない。
腕や足を引っ張られても相手にしない。
明日に備え、今は、少しでも体を休めて……。
そしてようやく訪れた、平穏の時。
このまま静かに眠り続け、明日の手術に。。。
ボク「うおーっ!!!(驚)」
比喩では無く、リアルに叫び声を上げ、慌てて飛び起きたボク。
両腕をブンブンと振り回し、心の底から、本気で怒ります。
今、ボクの首を絞めた奴、出て来い!(激怒)
時計を見ると、時刻は午前4時を過ぎたところ。
先程確認してから、たったの20分程しか過ぎていません。
その事実に軽く落胆し、一つ溜め息。そして同時に、確信しました。
― 夜にこの病室で眠る事は、これから先、恐らく不可能だ(疲)。
そうして迎えた朝。
6時に看護士さんを迎え、浣腸をしたら、手術までの2時間を眠って過ごします。
寝付く際、何度か右腕を引っ張られましたが、無視出来るレベルまで弱まっていました。
目覚めると、軽く眠ったせいか、頭がすっきりしていました。
そのまま手術に向かい、気付いた時にはオペ終了、点滴が終わるまで再び眠ります。
そして夕方、飲み物が解禁になったので、お茶を飲みにロビーへ。早く夕食の時間にならないかな~、そんな事を考えていました。
入院2日目の夜。
昼間にたっぷり眠ったため、眠気はさほど無く、割と頭はすっきりしていました。
しかし幻覚は相変わらずで、今夜も徹夜になるな、そう確信しました。
夜10時の看護士さんの巡回。12時の巡回、2時の巡回、5時の巡回。
「眠れませんか?」の言葉に、「仰向けになると少し痛くて」と嘘をつくボク。
当然です、『怖い夢を観るから起きています』なんて、四十路にリーチがかかった男が言う事ではありませんから。
― それにしても、この幻覚の正体は、一体何なのだろう?(悩)
目の前を通り過ぎる幻覚を眺めながら、漠然とそんな事を考えるボク。
手術前に見えていたのが『不安感』だとしたら、それが終わった後も見え続ける、これは何なのか。
そんな事を考えながら、迎えた朝日。朝食を摂るまでの僅かな時間、爆睡。
入院3日目は、する事も無いので、終始ダラダラ。
それでも、看護士さんや先生が度々訪れてくれますので、退屈する事はありません。
そして、三度迎えた、夜。。。
目の前を通り過ぎる幻覚は、相変わらず。
眠ろうとすると、腕や足を引っ張られるのも変わりありませんので、今夜も徹夜を覚悟します。
が、流石に疲れが溜まっているのか、やたらと眠い……(汗)。
テレビを眺めながらも、眠気に勝てず、つい眠りに落ちてしまったボク。
右腕を引っ張るモノに、意識の中で『邪魔だから向こうに行ってろ!』と一喝。
そうして閉じた瞼の向こう、透明な存在が、ボクに覆い被さる様に……。
― そうか、そういう事だったのかっ!(驚)
ボクはその時、ようやく気づきました。
ええ、そうです。ボクはずっと、勘違いしていたのですよ。
だから、この病室で静かに寝たいならば、最初からこうしておけば良かったのです。
でも、もう大丈夫。
この事実に気付いた今、ボクは、何の心配も無く眠る事が出来ます(笑)。
そうして3日ぶりに訪れた、平穏な夜。
ボクは安心して、眠りに就きました。
そして迎えた、朝。。。
看護「welcomingcatさん、昨夜は良く眠れたみたいですね♪」
ボク「はい、お陰様で(笑)」
―――
と、これが今回の入院で最も辛かった、訳の分からない出来事の顛末です。
一応書いておきますが、これは『怖い話』ではありませんよ?
ボクは基本、幽霊の類は信じませんからね。ええ、夢です、ただの夢。
『手術を受ける』という不安感が見せた、ただの幻覚だったのでしょう(笑)。
ちなみに今、病院から家に帰る電車の中で、これを書いています。
つまり今日は入院4日目、最終日。
この記事に書かれた『3日目の夜』とは、つい昨夜の事です。
で、今この記事を打ちながら、気付いた事があるのですよ。
それは記事の中にある、
『そういう事だったのか!』
と、ボクが真実に辿り着く場面。
いえ、ボクがこんな事を言うのも、本当に変な話なのですが……。
― ボクは一体、何に気付いたのでしょうね?(悩)
実は、覚えていないのですよ、肝心な部分を。
ボクは何かに気付き、安心して眠る方法を見つけ、朝まで熟睡する事が出来た。
これはつい昨夜の出来事で、他の部分は、全て詳細に記憶している。
なのに、何故かその『何かに気づいた』という部分だけが、すっぽりと抜け落ちているのです。
ボクは一体、何に気付いたのか?
安眠出来る方法とは、一体何だったのか?
眠る前、確かにボクは『何か』をした。なのに、何故その記憶が残っていない?
入院中にずっと見続けた、奇妙な夢。
あれが何だったのかは、きっと、一生解けない謎なのでしょうね。