テレビを観ながら晩酌をしていると、不意に目の前を、小さな黒い物体が通り過ぎました。
最初は気のせいかと思ったのですが、数回の後、ようやくそれが蠅である事が判明!
で、慌てて周囲を見渡すボク。
何しろボクは大の昆虫嫌い、虫がいると分かっている部屋で、のんびり酒など飲んでいられませんからね?(汗)
― 叩き潰してやる!
半ば泣きそうになりながら、目の前を通り過ぎた蠅を探すボク。
しかし何しろ蛍光灯の下、ただでさえ薄暗いその環境では、なかなか奴を見付ける事が出来ません。
なので仕方無く、『観なかった事にしよう♪』と自分に言い聞かせ、晩酌に戻りました。
が、そんなボクの気持ちを知ってか知らずか、またしても目の前を通り過ぎる蠅!
こちらが殺気を放つとすぐに隠れる癖に、落ち着いて飲み始めると、再び姿を現すのですよ。
まるでボクを馬鹿にするかの様に……本当にもう、実に忌々しい蠅です!(怒)
と、そんな事を何度か繰り返した、その時。
不意に飛んで来たその蠅が、ボクの左手の人差し指に、ピタリと。
ボクは一瞬固まった後、心の中で……。
ぎゃあああーっ!(絶叫)
先程から書いている通り、本当にボク、虫が死ぬほど嫌いなのですよ。
皆さんは『たかが蠅如きで』と思われるかもしれませんが、この状況、ボクには耐えられない程の恐怖なのです。
なので蠅が指から離れる様に、必死でブンブン、手を振り回しました。
が、一瞬は離れるものの、すぐにまた左手に戻って来る蠅。
一体何の目的あってか、何度も何度も、左手だけをピンポイント攻撃です。
ならばこちらにも考えがあります。このまま左手の上で、叩き潰して差し上げましょう!(怒)
ティッシュを手に取り、(気持ちが悪いので)間違って手の上で潰さない様に、そっと左手にアタック!
しかし蠅の方が、一瞬早く危険を察知し、どこかに飛んで行ってしまいました。
向こうからわざわざやって来てくれるなんて、今思えば最高のチャンスだったのに、惜しい事をしてしまいました。
― ま、もう戻っては来ないだろう。
ボクの傍に来る事の危険は、喩えそれが昆虫だろうと、本能的に理解した筈。
ならばもう二度とこちらには来ないだろうと、安心して晩酌を再開します。
そして何となく考え始めたのは、今の蠅の、実に奇妙な行動について。
― 何故あの蠅は、酒のつまみでは無く、ボクの指に止まったのか?
普通に考えれば、人間の指に止まるより、餌になる『つまみ』を狙う方が利益になった筈。
なのにあの一匹の蠅は、どういう訳か、餌よりもボクの指を選んだのですよ。
人間の指に栄養などあろう筈も無いのに、執拗に何度も何度も、命の危険も顧みずに。。。
と、そこで思い付いた、あの蠅の『異常行動』の理由。
それは……。
― 熱 ―
10月下旬にして、未だストーブの恩恵を受けぬ、寒い部屋。
そこに迷い込んだあの一匹の蠅は、実は餌よりも、暖かさを求めていたのでは無いか?
ボクの指に止まる事によって、指先の毛細血管の運ぶ僅かな熱を、自らの体に取り込もうとしていたのでは無いか?
生命の基本理念は、とにかく生き延びて、自らの子孫を残す事。
それに対しあの蠅が選んだのは、餌よりもむしろ、今目の前にある熱にすがる事だったのですよ。
だからあんなにも必死に、危険を顧みずに、人間の手の内に飛び込んで……。
― あんな小さな命でも、必死に生きているんだな〜(感心)。
小さな命に感服しながら、トイレへと立ち上がる、寒い部屋。
ふと壁に目をやると、そこには先程のものと思われる、一匹の蠅の姿。
ああこれが、必死に生きる命なのだな〜、と思いながら……。
ティッシュを手に取り、叩き潰しました。
小さな命だろうが何だろうが、そもそもボク、虫が大嫌いですから。(←何の教訓も得られない話だな:汗)