先日の仕事での移動、ボクは珍しく、バスを利用しました。
そこはかなりの田舎であった為、バスを待つ客は、ほんの数人だけ。
ボクはそんな客達と並び、客の姿の全く無い、無人のバスへと乗り込みます。
どうやらこのバス、先頭の席はシルバーシート。なのでボクは、前から三列目の席に腰を下ろしました。
バスの前側から、一列目と二列目には、3人の老人の姿。
そしてボクの斜め後ろには、学生服姿で小説を読む、少年が1人。
つまりこのバスには、ボクを含め、全部で5人が乗車しているという訳です。
走り出したバス、前列の老人達は皆知り合いの様で、人目も憚らずお喋りに夢中。
対して、斜め後ろで小説を読む学生と、無言でケータイをいじるボク。
車内に響くのは、老人達の楽しげな笑い声だけで、そこから後ろは静寂の世界でした。
と、30分ほど走ったところでしょうか、ふと背後が気になり出します。
どうやら後ろの奴らが騒いでいる様なのですが、どうにもこう、それが苛々するのですよ。
全く、車内でのマナーを理解出来ない奴らだな〜……などと考えながら、ふと事実を思い出すボク。
― 後ろって確か、無人じゃなかったっけ?
慌てて振り返るボク、するとやはりそこに人の姿は無く、いるのは斜め後ろの学生のみ。
先ほど感じた『後ろの奴ら』などは存在せず、そこにはただ静かに、空席だけが並んでいたのです。
なのに、後ろがうるさいだなんて……(汗)。
と、そこで気付きます。
これは明らかなる耳の錯覚、音の発生源は後ろでは無く、前の老人達だったのですよ。
きっと老人達の声が、車内の壁を反射し、後方に響いたものだったのですね。
― 全く、びっくりさせるな〜(汗)。
一瞬『狐にでも化かされたか!?』などと思った自分が可笑しく、軽い笑い声を上げるボク。
そうして目を瞑り、やはり後ろからザワザワと反射音が聞こえるのを確認し、ほっと胸を撫で下ろします。
ボクの推論、『後ろの音は反射音』が誤りでは無かった事に、深い安堵感を覚えながら。。。
30分後、目的地に到着したバス。
老人達の下車を急かしてはいけないと、鞄を手に持ちながら、座って待っていました。
そうして彼らが降りたのを確認、立ち上がり、何となく後ろに目をやると……。
斜め後ろの席に、スーツ姿の中年男性が一人。
うん。
……。
……。
え゛っ!?(汗)
確かに学生が乗っていた筈の席、しかしそこにいたのは、ネクタイを締めた中年男性。
バス停で並んでいる時から、ずっとその姿を目にし、車内でも何度も振り返って確認していたのに。
そのサラリーマン風の男性の事を、何故かボクは、ずっと『学生』と誤認して。。。
あの田舎のバスには、人に『錯覚』を起こさせる、何かがあるのかもしれません。