骨伝導……音が体内の骨を『振動』として伝い、聴覚神経に届く現象。
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その筋の、専門家を招いての検討会。
机に並べられた会議資料、緊張感漂う会議室。
これから始まる会議の圧力に、青白い顔をする司会者のすぐ隣、ボーッと資料に目を通すボク。
不意に司会者が取り出したのは、会議の発言を録音すべく、小型のレコーダー。
何故かそれが置かれたのは、ボクのすぐ目の前。
その場に座ったまま、ちょっと手を動かせば、容易に触れる事の出来る距離。
……あーあ、可哀想に(溜め息)。
何しろ専門家を招いての打ち合わせ、難しい用語が出る事を予期し、録音しておこうと考えたのでしょう。
メモを取るのは難しいから、後で自分でテープ起こしをしようと。
しかしそれには置く場所が悪すぎる。駄目なのですよ、そんな所に置いてしまっては。
始まった会議、飛び交う発言。
レコーダーの録音ランプが光っているのを良い事に、まるでメモを取ろうとしない司会者。
駄目なのに、まともに録音される筈が無いのに、そんな事には全く気付かず。
……可哀想に(悲)。
たまに訪れる沈黙に、水を打った様に静まり返る会議室。
何も聞こえない、ともすれば1km先の足音さえも響きそうな、そんな静寂。
しかし、レコーダーだけは確実に拾っているだろう、奇妙な怪音。
― ガリガリッ、ガリガリッ。
誰の耳にも届かなくとも、レコーダーだけは聞いている、記録している。
本当に僅かな音なのに、何故かはっきりと、発言者の声を欠き消すかの様に。
ノイズだけを拾っている、自身を伝う振動を、マイクの中で音声に変えて。。。
―――
すっかり油断した司会者の隣、皆からは分からない様に、そっと腕を机の下へ。
レコーダーの真下に来る様に指を当て、爪を立ててガリガリ、ガリガリ。
誰にも聞こえない程度に、けれどレコーダーには確実に『ノイズ』として記録される様に、ガリガリ。
会議の間中、休まずずっと。
可哀想な司会者。
一体どんな音が記録されていたのか、すっごく楽しみ♪(←悪魔)