不意に妙な香りがして、振り返りました。
そこにいたのは、ボクの同僚。
思わず、
ボク「今、せ……」
言いかけて、すぐに口を閉じます。
そして、何事も無かったかの様に振る舞いながら、足早に自分の席へ。
きっと今のは気のせいだ、そう、自分に言い聞かせました。
― 線香の香りがした。
そんな事、言える筈がありませんよね?
ここはオフィス、そんな香りがする筈はありませんし、気のせいに決まっていますし。
きっと他の『何かの香り』が、たまたまそんな風に感じられた、それだけの事だったのでしょう。
……にしても、何で『線香の香り』なんて思っちゃったんだろう?(汗)
芳香剤や石鹸の匂いならばともかく、線香の香り。
あまり気分の良いものではありませんし、早く忘れよう、そう思いました。
そして、今のは絶対に口に出す事は出来ません。下手をすれば、『気持ち悪い奴』と思われかねませんから。
『何となく、線香の匂いがした気がした』
もしもボクがそう口にしたとして、偶然今日、誰かの知人が亡くなったらどうなります?
ボクは、その人の死を予知した変な人、頭のおかしい人……そう思われるに決まっています。
だからこれはトップシークレット。絶対に誰にも、言ってはいけない事なのです。
……でも、もしも本当に誰か死んだら、どうしよう!?(泣)
誰も知らなくとも、他ならぬ『ボク自身』は知っている、線香の香りがした事を。
もしも本当に誰かが亡くなったなら、ボクはそれを、『ただの偶然』で片付ける事が出来るのか?
幽霊や超能力といった、非科学的な事は、全否定しているボク。
が、もしも自分が当事者になってしまったら……(困惑)。
そんな馬鹿な事がある筈が無い。
そう心の中で思うものの、『もしも偶然……』という事が頭に浮かび、どうにも落ち着きません。
なので、オフィスの電話が鳴るたび、ビクビクしたりして(汗)。
……ってまあ、こうして今日が終わり、結局何もありませんでしたけどね?
ええ、本当に何も起きず、穏やかに1日が過ぎ去って行きましたよ。
で、ほっと胸を撫で下ろすと同時に、心の底から得も言われぬ怒りの念が。。。
この手の『気のせい』、大っっっ嫌い!(←ずっとドキドキしながら過ごした男:笑)